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東京高等裁判所 昭和42年(ネ)5号 判決

控訴人 根本辰二

控訴人 逆井寿二郎

右両名訴訟代理人弁護士 佐々木良明

被控訴人 山田年夫

右訴訟代理人弁護士 駿河哲男

同 斉藤義雄

主文

本件控訴をいずれも棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実

控訴人ら代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張ならびに証拠の関係はつぎに付加するほか、原判決事実摘示と同一であるからこれを引用する。

一、控訴人らは、当審においてつぎのとおり陳述した。

(一)  代位弁済

本件建物の第三取得者である控訴人根本辰二は、昭和四二年六月一五日民法第五〇〇条の弁済をなすについて、正当な利益を有するものとして、原審相被告の債務者加納行孝が破控訴人に負担する債務金額二五〇万五、〇二三円を供託して右加納のために弁済した。

よって控訴人根本は民法第五〇〇条により被控訴人か右加納に対して有した権利を当然に取得した。したがって被控訴人の控訴人らに対する精求は失当である

(二)  代物弁済の成立時期

(1)  本件建物には、被控訴人のため、昭和三八年二月五日受付第一、二四一号昭和三八年二月一日付停止条件付代物弁済契約を原因とする所有権移転請求権保全の仮登記がなされ、控訴人根本のため昭和三九年九月四日受付第二、一六三号同年同月三日付売買を原因とする所有権移転登記がなされている。また被控訴人のため昭和三八年二月五日受付第一、二四〇号昭和三七年一〇月一日付継続的商品販売契約および昭和三八年二月一日付根抵当権設定契約による元本極度額二〇〇万円利息年一割五分損害金日歩八銭二厘債務者加納行孝とする根抵当権設定登記がなされている。

(2)  被控訴人および訴外中央電線工業株式会社は前記加納に対して、昭和四〇年三月三〇日付内容証明郵便をもって、前示停止条件付代物弁済契約に基づき、未払合計金二五〇万五、〇二三円のうち金二〇〇万円の支払にかえ、被控訴人において本件建物の所有権を取得する旨の意思表示をなし、右意思表示は同年四月四日加納に到達し、被控訴人は本件建物の所有権を取得したという。しかしながら代物弁済においてその給付が不動産所有権の移転である場合には、その意思表示がなされただけでは足りず、登記その他の引渡行為が完了しなければ代物弁済は成立しない。被控訴人はいまだ本件建物について所有権移転の仮登記を有するに過ぎないから代物弁済は成立せず、第三取得者として本登記を経由している控訴人根本に対抗できず、同人の代位弁済は有効である。

証拠〈省略〉。

二、被控訴人は、当審においてつぎのとおり陳述した。

(一)  控訴人根本がその主張の供託をしたことは認めるが、同控訴人が民法第五〇〇条により当然被控訴人に代位するということはない。

すなわち、右供託は被控訴人と訴外加納間の停止条件付代物弁済契約に基づく建物所有権を取得する旨の被控訴人の加納に対する意思表示があった後になされたものであるところ、右のような意思表示があった後、所有権移転登記手続がなされるまでの間にされた弁済供託によっては、これより先に債権者たる被控訴人が右代物弁済完結の意思表示により得た地位が害せられるものではなく、右の如き弁済供託は、債務を消滅させる努力はないものと解すべきである。もしこのように解するのではなく、逆に、右供託により被控訴人の得た地位が害されると解すれば、債務の不履行を停止条件とし、或いは、債務不履行後の予約完結の意思表示を停止条件として債務の弁済方法を定めた代物弁済契約は全く無意味となるそれ故右各停止条件の成就の時から、所有権移転登記を終了するまでの間は、債権者は本来の債権の弁済を請求することができず、従って抵当権を実行することができないで、ただ所有権移転登記手続をすることによって代物弁済を完成すべきことを請求しうるに止ると共に、債務者も本来の債務を弁済し得ず、たんに右代物弁済の完成に協力すべき義務を履行し得るに過ぎない。

よって、本件の場合、被控訴人に代位せんとした控訴人根本の前示弁済供託は所期の努力をなんら生ぜず、右供託によっては、本件不動産につき被控訴人の取得した地位はなんら影響をうけない。

(二)  控訴人らは、被控訴人が本件建物につき所有権移転の仮登記を有するに過ぎないから、被控訴人の本訴請求は失当である旨主張するが、仮登記権利者は、本登記をするに必要な要件を具備する場合は、仮登記義務者に対しては、本登記を、その他の第三者に対しては抹消登記の請求ができるのであるから、控訴人らの主張は全く理由がない。

と述べた。〈証拠省略〉。

理由

当裁判所の判断は、つぎのとおり訂正付加するほか、原判決と同一理由により被控訴人の本訴請求は理由があるものと認められるので、原判決理由をすべて引用する。

〈証拠省略〉も右認定を妨げるものではない。

一、原判決九枚目(記録二三丁)表二行目から四行目に、「きは、その債務の弁済に代えて本件建物の所有権を原告が取得することができる旨の代物弁済の予約をした。」とあるのを、「ことを停止条件として、その債務の弁済に代えて本件建物の所有権を被控訴人が取得する旨の停止条件付代物弁済契約をした。」と訂正する。

二、控訴人らは、控訴人根本辰二が昭和四二年六月十五日、訴外加納行孝(原審相被告)が債務者として被控訴人に負担する債務金二五〇万五、〇二三円を同訴外人のこめ弁済供託したから、被控訴人に代位して被控訴人が債務者に対して有する権利を取得したと主張するが、控訴人根本辰二の右弁済供託は、前認定の被控訴人から原審相被告加納行孝に対する代物弁済の条件成就により本件建物の所有権を取得する旨の意思表示の日である昭和四〇年四月四日より後になされたものであるところ、債務者がその債務を担保する趣旨で債権者との間に債務不履行を停止条件とする代物弁済契約をして後その債務の履行を怠り、債権者において債務の履行を求めると、代物弁済の効果を主張すると、そのどちらをとるべきかにつき選択権を取得した場合において、債権者が代物弁済を選択し、債務者に対し条件成就による代物弁済の効力を主張する旨の意思表示をなした後は、たとえ代物弁済契約の要物性を満足させるための登記等の手続が完了しないため代物弁済がまだ完全には弁済の効力を生せず理論上は旧債務がなお存在している場合でも、債権者はもはや本来の債権の弁済を請求しあるいは抵当権の実行をすることはできず、ただ所有権移転登記手続をすることによって代物弁済の効力を完成することを請求し得るに止るとともに、債務者又は第三者ももはや一方的に弁済供託をすることによって、さきに債権者が代物弁済を選択する旨の意思表示によって得た右のような地位を害することはできずしたがってかような場合にされた債務者あるいは第三者の弁済供託は債務を消滅させる効力がないものと解せられるから控訴人らの前記主張は採用することができない。

三、つぎに控訴人らは、代物弁済の目的物が不動産の場合には、代物弁済の意思表示のみでは足らず、登記その他の引渡行為が完了しなければ代物弁済は成立しないと主張する。なるほど不動産所有権の譲渡をもって代物弁済とする場合の債務消滅の効果は、原則として単に所有権移転の意思表示をするのみでは足らずその旨の移転登記の完了その他対抗要件を具備することによってはじめて生ずるものと解すべきであろう。しかしながらその際目的不動産の所有権移転の効果は原則として、代物弁済の予約の場合は予約完結の意思表示により、また債務者の債務不履行を停止条件とする条件付代物弁済の場合はその条件成就後債権者がその効力を主張する旨の意思表示をすることにより、生ずることは、わが民法が物権変動について意思主義を原則としていることから当然である。本件の場合目的建物の所有権は、昭和四〇年四月四日条件成就による代物弁済の効力を主張する旨の意思表示により、原審相被告加納行孝から被控訴人に移転することになり、これに基づく所有権移転請求権は、昭和三八年二月五日受付の仮登記により保全されているから、同被告に対し右代物弁済に基き該仮登記の本登記手続を求める被控訴人の請求は理由がある。

又被控訴人の右昭和三八年二月五日受付の仮登記は本登記のため順位保全の効力を有し、控訴人根本辰二の受けた所有権取得登記控訴人逆井寿二郎のうけた抵当権設定登記はその順位がこれに後れるものであるから、原審相被告加納行孝に対する本登記の請求と併せて、控訴人らに対し、右本登記がなされると同時に被控訴人の本登記後の所有権に抵触する控訴人らの所有権取得登記、抵当権取得登記は抹消せられるべきものだから、本登記手続をすることの承諾を求める被控訴人の請求も亦理由がある。

四、よって、原判決は相当であって、本件控訴はいずれも理由がないからこれを棄却すべく〈以下省略〉。

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